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肩の痛み
「そのうち治るは本当か?」

2022年5月

埼玉県立大学 保健医療福祉学部 理学療法学科
医療法人 草加整形外科内科(肩関節外来)
医療法人 やつか整形外科内科 (一般外来)
医療法人 山手クリニック(肩関節外来)      村田健児
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1. はじめに

 2019年の国民生活基礎調査では、男性は2位、女性は1位となった身体症状は”肩こり”です。最近では、リモートワークやスマートフォンの普及によって、肩に違和感や痛みを感じる機会が増えた方は多いのではないでしょうか。一般的に広く認知されている言葉として「五十肩」がありますが、この言葉の発祥は江戸時代に遡り、当時は50歳頃から出現する肩の痛みとして認識され、平均寿命が40歳代である江戸時代には「長命病」と呼ばれていました。現在は、中高年に発症する原因のはっきりしない肩の痛みと可動制限を伴う症状を広い意味合いとして「五十肩」と呼んでいます。しかし、五十肩をより専門的に分類すると代表的には“凍結肩”や“腱板断裂”といった様々な肩の病気を包括しています。   

本WEB講座では、最も一般的な症状を引き起こす「凍結肩」について、正しい知識と対処方法について紹介していきます。中高年に生じる肩の痛みについて「固まらないように動かしておけば治った」といったことを耳にします。あながち間違いではありませんが、条件として正しい肩の知識があることが前提となります。間違った対処方法は肩の運動を著しく制限し、肩の運動性の改善に1年から2年かかる方もいます。凍結肩の自己管理について、動かすタイミング(When)・動かすべき関節(Where)・動かし方(How)について解説していきます。

 

2. 痛みの原因を理解すればいつ動かすべきか理解できる!(When)

 凍結肩は、激しい肩の痛みを主訴とする炎症期(疼痛期)と肩の運動が著しく制限される凍結期(拘縮期)に分類することができます。When(いつ動かせばいいか)は痛みの原因を理解することができれば対処が可能であり、このためには動かしてはいけない痛みと動かしていい痛みの2つを判断することが重要となります。前者は炎症による痛み、後者は関節包などの硬さによる痛みです。

まず、炎症期はできるだけ肩を安静にして痛みを起こさないことが重要です。この時期に「固まらないようにしないといけない」という焦りの気持ちがでてきますが、誤った運動は有害な刺激となり、著しい硬さが2−3ヶ月かけて徐々に構築されてしまいます。この時期は、安静、ステロイド薬の関節内注射、内服によるできる限り早い抗炎症処置を徹底することが必要です。

一方、関節包などの硬さによる痛みが生じる凍結期の治療は、理学療法などのリハビリテーションによって肩の運動が第一選択肢となります。このため、When(いつ動かせばいいか)の回答は、「硬さによる痛み」の時期、すなわち凍結期となります。凍結期にも関わらず治療者ならびに患者の双方が「痛い=炎症期」という固定観念によって、長期間改善しないケースをよく散見します。このため、わからない方は専門の医療機関での診断をお勧めします。

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3. 肩関節の構造を知れば、どこを動かすべきかが理解できる!(Where)

 先述したように五十肩の多くは肩関節の関節包の炎症や硬さによって、肩関節が動かなくなる現象が生じます。一概に肩といっても様々な関節が肩の運動に関連しますが、理解するべき肩関節は、腕をあげるという動作で想像できる上腕骨(レントゲンなどでよく見る丸い関節:Ball joint)と胸郭の上を滑るように動く肩甲骨が運動に大きな影響を果たしています。このセッションでは、動かすべき関節(Where)について、上腕骨と肩甲骨の視点から回答します。

炎症期の多くは関節包で問題が生じますが、関節包は上腕骨の関節部分に近接し、関節の安定性に寄与しています。一度炎症が起こった関節包には肩を動かなくする様々な因子が出現するといわれ、炎症期はこの上腕骨に炎症所見が生じています。このため、炎症期に上腕骨を動かすことは肩を悪化させる方向に導く可能性があり、行うべきではない運動の一つです。

しかし、炎症期に行っても良い運動もあります。逆転の発想で、上腕骨に問題が生じているのなら、肩甲骨を動かすことで上腕骨の負担を減らすことを考えます。炎症期には、「固まらないようにしないといけない」という言葉を、肩甲骨を動かすことで上腕骨のストレスを逃す手段と捉えていくべきではないでしょうか。このように考えると姿勢の変化や運動不足によって生じた肩甲骨の硬さは上腕骨へのストレスを増大させることになり、これが五十肩の原因となっている可能性も念頭におく必要があります。症状の有無に関わらず肩甲骨の運動性を向上させることは肩疾患の予防として重要な視点です。

 

4. 肩(上腕骨・肩甲骨)をどのように休ませるか/動かすか(How)

 前述したように肩関節を上腕骨と肩甲骨に分けてどのように休ませるか、または動かすか考えましょう。まず、少し理論的な話となりますが、肩の運動が難しい理由の一つは、自由度が高いところにあります。簡単に説明すると、ヒトは動かしやすいところから運動することで、無意識的に動作を効率化する生き物です。簡単に言えば、右利きの人があえて左で箸を使ってご飯を食べるという非効率的な動作を自然的に選択することはありません。肩関節も一緒で、動きやすさの視点では肩甲骨よりも上腕骨の運動が優先されてしまいます。このため、安静にしたくても知らず知らずのうちに上腕骨が動いている、肩甲骨の運動をしようと思っても上腕骨が運動することで正しく安静にできないなどの問題が生じることがあります。

 このため、上腕骨の運動を簡単に可視化できる方法を一つ紹介します。肩が動くという動作は、言い換えれば“気をつけをした姿勢で身体から腕が離れること”と同じ意味となります。このため、フェイスタオルを脇の下に挟んで日常生活を過ごしたときに、挟んだフェイスタオルが脇から落下した場合は、肩(上腕骨)が動いている状態となります。やってみると意外と生活の中で自然と肩を利用してしまっていることを実感することができると思います。

 続いて、肩甲骨を動かしてみますが、肩甲骨はそもそも胸郭上を滑っているだけですので、肩甲骨自体そこまで大きな可動性はありません。前述したように挟んだフェイスタオルが落下しないように肩甲骨を上(すくめる)、内側・外側(肩甲骨は下には動きません)方向に動かしてください。多くの方が動かないことを実感しますが、それが純粋な肩甲骨の運動です。肩甲骨を動かそうとして脇が体から離れている時は肩甲骨+上腕骨の動きとなっています。また、どれくらい動けばいいのか聞かれることも多くありますが、個人によって違うと思われます。ただし、目に見えた動きの変化がなくても肩甲骨の運動を意識するだけ症状が軽快することは多く経験していることも事実です。

最後に凍結期(拘縮期)の上腕骨の運動です。この時期は上腕骨を動かすことが改善に向けた最短の道となります。両手を組んで、腕を挙げていきましょう。おそらく、硬くなった肩には腕の外側から上腕にかけて痛みが広がり、降ろせば痛みがなくなる方が多いのではないでしょうか。この痛みであれば、運動は継続し、「痛い=炎症期」という考えを無理しない範囲で変えてみましょう。ただし、著しく固まってしまった肩は改善に時間がかかるかもしれません。しかし、“痛みのルール”だけ理解できてしまえば、日常で使っていくことが改善に向けたリハビリテーションの一つとなり、怖いケガではありません。

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5. まとめ

 二足で生活する人間にとって、“肩関節”は生活の重要な手段となります。痛みがあっても「そのうち治る」という考え方は時に生活を不自由にしてしまう可能性もあります。肩を動かす本当の意味を理解し、五十肩を予防していきましょう!