PROJECT

「身体がやわらかい・かたい」を科学する

“身体が固いね”“身体が柔らかいね”という会話をこれまで多くの方が経験してきているものではないでしょうか。その多くが「身体が固いから痛くなる・ケガをしやすい」という会話の流れであり、自身でストレッチなどの運動を実践する方も多くいます。

 

それでは・・・

      “身体が固い”=“痛い・ケガをしやすい”                        

        “身体が軟らかい”=“良い状態”      なのでしょうか?

 

身体はタスク(例えば家事や目的とする動作)を達成することを目的とした際、固い関節がありタスクが制限される場合があります。このとき、多くの人はタスクという目的を達成するために、他の関節で代償することを動作戦略を選択するのではないでしょうか。例えば、凍結肩拘縮期では、棚の上のものを取る場合、腕が上がらないために肩甲骨を挙げるか、身体を反る・傾くことで、目的のタスクを達成します。

 

年齢に伴い、身体が固くなることは誰しもが実感しますが、加齢に伴って身体が固くなることは蓋然性の高い事象であり、関節のぐらつき、すなわち、異常な柔らかさこそが異常であると考えます。つまり、身体には適度な”かたさ”が重要です

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我々の研究室は、この異常な関節不安定性こそが様々なケガや病気、症状を引き起こす可能性があるのではないかと考えています。関節不安定性は解剖学的要因や病態、遺伝的要因、さらに機能的要因の様々な原因から生じますが、不安定性という抽象的な事象からヒントを得て、身体機能への影響について研究に邁進しています。

 


2017年、2018年には関節不安定性によって、どのような影響が関節軟骨に生じているか検証しました。その結果、ぐらついている関節はより軟骨の変性を促進し、安定した関節では軟骨の変性が抑制される結果となりました。これらの反応は滑膜や軟骨下骨など関節構成体の他組織まで影響を及ぼします。すなわち、関節が不安定な状態で放っておくことは身体組織にとって大きなダメージを与えることになるかもしれません

 

■Murata K. et al. Osteoarthritis Cartilage. 2017 Feb;25(2):297-308
■Murata K. et al. Cartilage. 2018 Oct;9(4):391-401.

これらの成果は、月刊「細胞」2019年 11月号 メカノセンシングの生物応答のTopics from special editionに掲載されています。

それでは、筋肉についてはどのような影響を与えるのでしょうか。右の図は、筋萎縮マーカーであるAtroginやMuRF-1の大腿四頭筋におけるタンパク質の発現量です。前十字靭帯を断裂によって関節が不安定な状態にした場合は4・8週間で明らかに筋萎縮因子が増加していました。これは、関節がぐらついたままの状態では筋萎縮を促進する可能性を示します。

身体がやわらかい人が筋力がつきにくいという声を耳にしますが、その理由としてぐらつくことによって筋力の張力が低下していることに由来しているかもしれません。現在、関節のぐらつきと筋萎縮のメカニズムについて検証を継続しています。
 

​In Vivo Research

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Systematic Review

関節不安定性を伴う患者に対する対処は可能なのでしょうか。我々は2020年に関節不安定性に対する運動療法の効果について、システマティックレビューから検証しました。これらの結果では、関節不安定性自体については、運動療法で効果を得ることは難しいという結論に至りましたが、疼痛や膝の機能を評価するWO-MACについてなど症状の軽減を認めた論文があることは、運動による効果の希望の一つと思います。

また、関節不安定性について、まったく手の打ちようがないわけではありません。我々は、継続的に装具療法が関節不安定性に与える影響について、再度システマティックレビューで検証を進めています。途中段階にありますが、変形性関節症に限らず、前十字靭帯損傷後の不安定性への装具療法介入効果については、一定の効果が期待されそうです。本研究内容は、近日論文を投稿する予定です。

■ Kawabata et al. Osteoarthritis Cartilage OPEN. 2020;2(4):100114
■ 榊田ら. 第30回埼玉県理学療法学会. 2022 

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Clinical Study

実際にどれくらいの方が不安定性を訴えているのか、変形性膝関節症の罹患患者から検討してみます。調査の途中ではありますが、変形性膝関節症患者の約3人に1人は不安定性を自覚的に訴えています。これらの詳細を表に示しますが、不安定性を訴える患者はBMIが高い、OA変性が重度、患者立脚型評価について様々な困難感を訴えていることがわかります(赤囲)。

しかし、膝関節や股関節や足関節といった近位関節への影響については、特段な差を認めていません。このことは、変形性膝関節症患者の不安定性の有無は機能的要因ではなく、どちらかといえば他の要因によって生じている可能性があります。

これらの結果はシステマティック・レビューの結果と一致しており、リハビリテーション分野にとってはネガティブに思えます。しかし、患者が訴える症状は、必ずしも関節不安定性状態によってのみ生じるものではありません。不安定性を訴える患者に対しては、このような特徴を持っていることを意識して治療にあたる必要があるかもしれません。

◇データ協力施設

草加整形外科内科 リハビリテーション部

やつか整形外科内科 リハビリテーション科

■ 川端ら. 第30回埼玉県理学療法学会. 2022 
■ 藤原ら. 第30回埼玉県理学療法学会. 2022 

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​In Vitro Research

現在、我々は軟骨細胞・筋芽細胞・線維芽細胞に対する関節に対するストレスの影響を調査しています。特に、軟骨細胞に対するin vitro細胞不安定性状態再現や線維芽細胞や筋芽細胞に対する引張ストレスから不安定性が生体組織ならびに細胞レベルに及ぼす影響について調査を継続しています。

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